インタビュー #1

まつざわくみさんとは

いよいよ、ニジノ絵本屋のレーベル待望の新刊『ちいさなみずたまり』4/23に発売です!
この作品は、主人公のちいさなみずたまりが様々な景色を自分に映しこんでいくように、
著者のまつざわくみさんが、様々な人と出会い生まれた絵本です。
そこで、まつざわさんが大切に紡いできた「物語の裏側にある物語」を、
この絵本の装丁を担当した梅垣が、まつざわさんと一緒に紐解いていきたいと思います。

第1話は、著書紹介です。
三児の母・アーティスト・児童文学作家などたくさんの顔を持つ、まつざわくみさんとは?

日常 × 三児の母

梅垣)打ち合わせに颯爽と現れるまつざわさんは、こんな細身のどこにそんなエネルギーがというくらいパワフルで、いつも明るい笑顔が印象的。そんなまつざわさんとの打ち合わせはいつも楽しくて、あっという間に時間が過ぎ去ってしまいます(笑)。
そしてお子さんのお迎え時間になると風のように去りゆく姿を見て、本当にエネルギーに満ち溢れていて素敵なお母さんだなあといつも思っています。

お子さんは、3人いらっしゃるのですよね? 3人の子育てはやっぱり大変ですか?

まつざわ)7歳と5歳ともうすぐ3歳の子どもがいます。もう毎日が卒業旅行の夜のような騒ぎですね。賑やかで楽しそう! までは良いのですが…最近は末っ子の次女も自己主張が強くなり、女子に挟まれた真ん中の男の子が上とも下ともケンカをして泣いてばかりで、私もついつい仲裁に入って口を出してしまいがちです。
でも3人いると日々の中で色々なドラマが繰り広げられて愉快ですよ。1人がパーカーを後ろ前に着て見せると、残り2人もパーカーを引っ張り出してきて後ろ前にきて、全員が首の下に袋をぶら下げた見た目で変な歌を歌って行進し出したり。お姉ちゃんとお兄ちゃんが、お互いが居ないところで末っ子に優しく接して「かぞくで1ばんスキなのはだ〜れ?ん?にーにって言ってごらん」とこそこそ擦り込みしようとしていたり。テレビでお笑い番組を観るよりもずっと面白いなぁと思う時がありますね。

お子さんたちとの写真
お子さんたちとの写真

まつざわ)大学でドキュメンタリーを撮っていた時も、就職先でもいつも興味対象がこどもでしたし、基本的に小さい人たちを見ているのは飽きないし大好きです。だけど、お母さんになると見ているだけではなくて、同時に家の中を回さないといけなくなるので、まー最近はガミガミ言う母ちゃんになっちゃいましたねぇ。仕事との両立は体力が要るし大変と言えば大変ですが、語っていた夢が実現すると心から喜んで一緒に踊ってくれるので、とてつもないパワーももらっています。

梅垣)私自身いつかもし子どもを持つことがあればどんな環境になるんだろうなと、ふと考えることがあるんです。なので、3人の子育てもアーティスト活動もと奮闘されているまつざわさんの姿は、とても励みになります。

kirifuda Japan × 小林久実

梅垣)次は、まつざわさんのお仕事についてお伺いしたいと思います。普段は「小林久実」さん名義で、名刺やディスプレイを制作されているのですよね。

まつざわ)はい、元々は長女を妊娠中にチェコ人の友人のペーパークラフトブランド PORIGAMI の手伝いを始めました。起業した彼女は建築家でしたが、日本での出産を機に、何を作り続けて仕事にするか試行錯誤していて、その姿に学ぶことが多かったですね。
彼女が本国へ帰国してからも、私が代わりに歩き回って色々な人と繋がり、制作する機会をどんどん作ってゆきました。お互いに授乳しながらオンライン通話をしてクライアントの要望やアイディアを伝え合ったり、時差もありましたが楽しかったですね。数年の間に、一緒にレーザー加工を施した大小様々な紙作品を沢山作り、本も出版しました。海を隔てた遠隔コミュニケーションだけで、本当に良く続いたなぁと思います。

PORIGAMI | びょうぶカード

その後お互いの場所でクライアントも増え、目指す方向もそれぞれになり、私は2018年にkirifuda Japanとして独立しました。レーザーや箔押し加工は、それまでのチェコではなく全て国内ラインにしなければならず、あちこち探し回って試作したりと大変でした。結局はインスタをご覧になって連絡くださった、センスの合う同世代の職人さんとのご縁に恵まれ、お互いに得るものが多い関係を築けています。

30代で3人を続けて出産したので、産休も育休もない自営業をビジネスとして展開させて行くのは、本当に体力が要りました。でも企業へは「赤ん坊連れです」とお伝えしてからプレゼンへ行ったりすると、社長を含めて皆さんがニコニコして待っていてくださったり、臨月間近だと商談も即決だったり(笑) 色々な意味で子どもたちには本当に助けられましたね。

作風などは、あまりとらわれずに制作していますが「和モダン」が好きです。江戸小紋柄などの伝統的な美しさを、新しい形で光と影を通して見つめて、日本文化の素晴らしさを再発見したいんです、私自身が。

kirifuda Japan | カード
kirifuda Japan | 切り札

梅垣)レーザーでカットされて透けて見える空間や影が本当に繊細で、どれも美しいですね。名刺の制作は紹介制でオーダーメイドとのことですが、どういう風に制作されるのでしょうか?

まつざわ)経営者や、アントレプレナーの方のここぞと言う場面での「切り札」となるアート名刺を制作しています。クライアントにはお名前の由来や、ご両親のこと、ごきょうだいのこと、幼少時代に好きだったことなど、昔のことも振り返っていただいて色々と質問させていただきます。
そこからご自分のお子さんの名付けの理由や、現在のお仕事を始められるまでの経緯や、これまでの後悔、これからの夢についてなど…本当に様々です。その方の「物語」に耳と心を澄ましていると、自分の中のみずたまりの水面に、見たことがないはずの景色や人物像が映り出す瞬間があるんです。そしてそこに必ず発見や共通点が見つかるので、私も聞くだけではなく自分の物語を語ります。すると相手の水面にも、私の思い出の色が滲み出すように感じられる瞬間が訪れる。
もう楽しくて止まらないので、忙しい経営者と2時間以上話してしまうこともあって、ビジネスとしてはもっとビシッとしないといけないとも想うのですが(笑) 一緒に心を動かして泣いてしまったりすることもあります。コンサル時間は毎回色んな発見があり、本当に宝物だなぁと思いますね。だって自分の知らなかった人が自分の物語を、とても信頼してドーンと委ねてくださるから。上下巻の自叙伝をこっそり読ませていただく気分です(笑)

そこからはすぐにモチーフ選びに入れる方もいれば、1ヶ月かかる方もいますね。思いついたら何度もスケッチしてイメージを形にしてゆきます。名刺としての強度を保ちつつ繊細なカッティングをギリギリまでかけてゆくための知識と技術は、信頼する技師さんが一番!沢山の力を借りてデザインを完成させます。
その後、依頼者にアイディアを提案するのですが、まるでパズルのピースがピタッとはまるように感激していただけることが多々あり、プレゼンのその瞬間がとても愛おしいです。納品の際には、アート名刺に込めたその方の物語を直筆で自作のカードに綴ってお渡しするので、名刺と同じぐらい喜んでくださる方もいらして幸せな疲労感です。

梅垣)アイディアを考えるのは主にご自宅とのことでしたが、お子さんもいる中で工夫されていることなどありますか?

まつざわ)意識して工夫していることは、あまりないですね。ただ何かを作ろうとしている時って、心のどこかでいつもその種を温めている感じがあります。だからあまり真剣に考え過ぎて煮詰まったりはせずに、語ってくださっていた方の「いいなぁ」と感じた表情や言葉を想い出したり、その方がどんな風に完成したアート名刺を誰に渡すのか、と想像してみたりすることでアイディアが浮かぶことがあります。
あとは、こどもたちにシンプルな言葉で「今日、かーちゃはこんな人に会って、その人のこんなところがステキだなぁって思ったんだ」と話していると、そうか、と思いつくことがありますね。子どもたちに向けて自分が語る言葉の中には、自分で気づかされることがよくあります。ああ、私ってこんな風に想っていたのか、とか。シンプルな言葉と、伝えたい相手の存在の力でしょうね。新しい物語の種も、そんな対話から生まれることがよくあります。

児童文学作家 × まつざわくみ

梅垣)今回絵本という形で出版されるのははじめてとのことですが、子どもの頃から物語を書いていたのですよね。

まつざわ)はい、獣医さんになりたかったぐらい動物が大好きだったので、動物が出てくる短いファンタジーを書いて冊子にしたのを覚えています。と言っても、画用紙に書いた状態に、穴あけパンチで穴を空けてリボンで結んだ、かわいらしい手作り本ですが。幼稚園の頃から、母がよく買い物の合間に区立図書館へ連れて行ってくれたので、小学校の図書室も大好きな場所になりました。

毎週本を借りては読書ノートに書いていました。図書室の先生がゆったりとした優しい声で語る「みんなのママ」のようなとても素敵な雰囲気の方で、毎回赤ペンで感想文にコメントをくださるのですが、6年生最後の感想文に「先生は、久実ちゃんの読書感想文を読むのが楽しくて大好きでした。大きくなったら何を感じて書いているのかな。ノートさん、それまでさようなら。」と書いてくださったのを今でも覚えています。最近ご縁が繋がり、退職された先生の連絡先をあるご親切な方に教えていただいたので、完成した絵本をお届けしてお話しできるのが、とっても楽しみです。

梅垣)その読書ノートが、まつざわさんが物語を書くことの原点だったのでしょうか?

まつざわ)そうですね、読書ノートも原点かもしれませんが、本当に覚えたての文字を繋げて短い文章を書く、という楽しみを早い段階で教えてくれたのがこの「日記」ですね。1〜3年まで受け持ってくださった担任の先生がとても風変わりな先生で、独特の世界観のある方でした。見た目は仙人のようで、理科室の奥でビーカーでお湯を沸かしてコーヒーを飲んでいたり…見た目も行動も怪しさ満点(笑) でも心から信頼できて、大好きな先生でした。当時からシュタイナー教育を熱心に学んでおられて、クラス内でも実践されていた方です。

まつざわさんの日記

まつざわ)実は80代後半になられた先生は変わらずお元気で、私は今でもとても仲良しなんです。先生とお会いする度に、私は「まつざわくみ」に戻ってしまうんですね。先生も変わらず「くみちゃん」と呼んでくださるからかな。

梅垣)そういえば今回、著者名をkirifuda Japanでも使用している「小林久実」さんにするか「まつざわくみ」さんにするか悩まれていましたが、何かそういった思い出も関係しているのでしょうか?

まつざわ)あの頃、毎日のように「日記帳に何を書いて先生に伝えよう」と考えていた小さな自分を、私は大人になっても自分の中で大切にしてきたような感覚があるんです。
だから時に我が子たちに、ちょっと偉そうなことを言いながらも「そんな言い方したってわかるわけないじゃん」と小さな自分が語りかけてくるような気になることがあります。そうやって幼い日の自分とずっと繋がっていられたから「新しい世界に目をクリクリさせながら書く」ということを、どんな仕事の傍らでも細々と続けて来れたのかもしれない…今回初めて絵本を出すにあたって「あの頃の自分が今の自分の中で書いているんだな」と感じて、著者名にすることにしました。

第1話では、三児の母・アーティスト・児童文学作家などたくさんの顔を持つ、
まつざわくみさんの創作の原点についてお伺いしました。
次回は、そんなまつざわさんがこの物語を着想したきっかけなど
誕生秘話を紹介します!お楽しみに〜!

プロフィール

まつざわくみ/著者

慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、出版社勤務を経て都内インターナショナルスクール幼稚園勤務。 傍らで児童文学の執筆を行い、新美南吉童話賞や福音館書店「一日一話コンテスト」受賞。
チェコ人の建築家とペーパークラフトブランド PORIGAMI を運営し、レーザー加工を施した紙作品が海外で受賞。 共著に「びょうぶカードBOOK にっぽん四季おりおり」(青幻舎)がある。
"kirifuda Japan"を立ち上げ、経営者のアート名刺やディスプレイ等を制作。
https://www.instagram.com/kirifuda_meishi/

梅垣陽子/装丁

神奈川県横須賀市生まれ。上智大学外国語学部ロシア語学科を卒業後、システムエンジニアとWEBデザイナーを経て、現在はブックデザイナーと絵本作家の一人二役ユニット「空想繪本屋」として活動。『野心家の葡萄』(吉家千陽名義)で絵本作家デビュー後、同作品で日本ブックデザイン賞2018入選。
https://www.instagram.com/chiharu.yoshiie/

インタビュー一覧

第1話
まつざわくみさんとは

2020年3月13日

第2話
この物語を作ったきっかけ

2020年4月15日

第3話
ノーム・コーンさんとの出会い

2020年4月18日

第4話
谷川俊太郎さんとの出会い

2020年4月19日

第5話
ニジノ絵本屋との出会い

2020年5月27日

ニジノ絵本屋

ニジノ絵本屋は「絵本の読み手と作り手をつなぐ架け橋」になることを目指し、2011年にオープンした絵本専門店です。東急東横線都立大学駅より徒歩3分の場所にある「店舗」、子どもから大人まで楽しめる絵本を制作する「出版」、音楽や食などとの掛け合わせで絵本の新たな魅力を伝える「イベント」の3つの軸で活動しています。
ニジノ絵本屋のレーベル絵本とは、絵本作家をはじめとするアーティストの仲間たちと企画・制作しているオリジナルの絵本です。