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偶然の出会い

夜、寝る前です。
うつ伏せになった私と弟。隣に母がいて、その枕元には一冊の絵本があります。
登場するキャラクターによって母は声色を変えて読んでくれます。母がページをめくるたびに、その世界に私たち兄弟は没頭していきます。
知らない言葉が出てきても質問なんてしません。もう何度も読んでもらって、知らない言葉がないからです。
いつも先に弟が寝てしまいます。そうすると、母は声をすこしだけ潜めて、私のために最後まで絵本を読んでくれました。
絵本が読み終わると、自然と私の瞼は重くなり、そして気付いたときには朝をむかえていました。
私がちいさなとき、母は毎晩のように絵本を読んでくれました。
それらの絵本は、いまだに残っています。ところどころ私と弟による落書きがあったり、下手なひらがなで名前が書いてあったりします。表紙は汚れ、手垢もついています。それでも読むたびに新しい発見があり、新鮮味があります。年齢を重ね、自分が得てきた経験が絵本に反映されていくのを感じます。
物心がついたときには、絵本を知っていました。
そして、絵本の世界を当然のように受け入れていました。
きっと、このコラムを読んでいるみなさんも、おなじような感じではないでしょうか。
つまり私の絵本についての知識は、みなさんとあまり変わりないのではないということです。ただ、それはすごいことです。絵本を知らない人はいないし、ましては読んだことがない人すらいない。それほどまでに絵本はわたしたちにとって身近なものだということです。
書店に行けば、絵本専用の棚があり、その前では食い入るように絵本を見つめる子供がいます。
あまりにも身近で、あまりにも当然に生活の中にある絵本。
当然にあるものというのは、それについて深く考えないものです。
これを書くにあたって、私が一つ目標にしたいと思っていることがあります。それは、更にたくさんの絵本と出会い、そして絵本の今まで知らなかった可能性を探ることです。
さて、第一回ということで、まずは私の好きな絵本を一つ。

〈ぐうぜんのことが つづくひび〉

そんなコトバからはじまる絵本です。
作詞・ミラー郁子さん、絵・ドン・カ・ジョンさんの『とどけありがとう』。
この絵本は、このあとこのようにつづきます。

〈しあわせ ふえていく
 なんとなく やさしいきもちに なります〉

私がこれを書くことになったのは、本当に偶然によるものです。
上でも言いましたが、絵本の知識がたくさんあったからではありません。偶然がつづいて、このような機会にめぐまれました。
『とどけありがとう』でも書かれているように、これを書く事をきっかけにしあわせが増えていくような気がします。そして絵本のことを知れば知るほどに、「なんとなくやさしいきもち」になっていくはずです。
絵本は、読んで「楽しい」や「ワクワクする」という魅力だけにはとどまらない、なにかもっとすごい可能性がある。そう確信しています。
それはきっと一言では表現できないもの。
だからこそ、わたしはこのコラムを書くにあたって、絵本の「一言ではあらわせない可能性」をすこしずつ発見できれば、しあわせです。
『とどけありがとう』には、こんなコトバもあります。

〈ありがとう ぐうぜんのであいに〉

このコラムを読んでくださっている方とわたしの出会いは、偶然です。
その偶然の出会いに感謝しつつ、これからも絵本から感じられたことを書いていけばと思います。


海老原邦希

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