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共有する価値観

絵本を手にして、お母さんが子供に「どう?」と尋ねる。
そんな光景をよく目にします。
私が、ニジノ絵本屋の店頭に立っているとき、親子連れがよくきてくれます。生後数カ月の赤ちゃんから、小学生の高学年まで、子供の年齢はさまざまですが、一緒にやってきたお母さんやお父さんの反応は似ています。
ニジノ絵本屋は人が三人も入ればいっぱいになってしまうようなちいさなお店です。なので、すぐにどんな絵本があるか見渡せます。でも、置いてあるのは、普通の本屋さんでは目にしたことのない絵本ばかり。知っている絵本もすくないので、やはりなにを買おうか迷うようです。
そんなとき、お母さんやお父さんが、これを買おうと思う決め手となるが、子供の反応です。お母さんやお父さんは、一冊の絵本を手にすると、子供に見せて「どう?」と尋ねるのです。
私が思い出にのこっている絵本というのは、ほとんどが母の買ってくれた絵本です。そして、間違いなくその絵本は母が好きな絵本でした。いまでは、自分の好きな絵本というのがあり、それを人に薦めることもあります。しかし子供のときは、まだ自分の好みというのはよくわかっていません。母が「いい」と言ったものが、自分にとっての「いい」でした。そしてその価値観というのは、大人になった今も、色濃く自分の中に残っているような気がします。
子供に見せて「どう?」と尋ねるお母さんを見て、私はその手にとった絵本はお母さんやお父さんにとっても読みたい絵本であるのか気になりました。
そして、まもなく解答を得ることができました。
お父さんと小学校低学年くらいの女の子が二人で絵本屋にやってきました。お父さんは、娘に絵本を買ってあげる気満々です。しかし女の子は、どの絵本がいいのかなかなか決まりません。

「これなんかいいじゃないか? かいぞくだ、かいぞく」

そうお父さんが言って一冊の絵本を手にしました。それは、海賊が出てくる翻訳絵本でした。
娘に「どう?」ときくこともなく、お父さんはその絵本を購入しました。
この出来事があって、やはり私はお父さんやお母さんが子供に買ってあげる絵本は、自分にとっても読みたい絵本であると確信しました。すこし考えればわかることでした。「どう?」と子供に見せた絵本が、自分の好みではない絵本なわけがありません。子供に選ばせる以前に、親は自分である程度、絵本を選定しているのです。
子供がその絵本を気に入らなかったら? と心配することはありません。お父さんやお母さんがその絵本を好きならば、子供も好きになるものです。むしろ、自分のためだけに買われた絵本というのは、あまりおもしろいものには感じものです。
大事なことは「共有」することです。一緒に楽しみ、一緒にワクワクできることです。
もしも、一冊の絵本で親も子供も楽しさを共有することができたのであれば、その絵本の「いい」が深まっていくのです。きっと、その絵本はその子が親になったとき、自分の子供に与える絵本の一冊になるはずです。
子供に与える絵本に迷ったとき、自分が好きな絵本を自信もって選んでもいいのかもしれません。子供と一緒にその絵本を楽しめるかどうかを、選定の基準にしてみてください。


海老原邦希

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